最高裁判所第三小法廷 昭和27年(あ)5639号 判決 1954年4月13日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人中島万六の上告趣意(後記)第一点について。
所論一の(一)は、酒税法が取締法規に過ぎないのにその刑罰が過酷であるから、同法は憲法一三条三六条に違反すると主張するのである。しかし憲法三六条にいう残虐な刑罰とは、不必要な精神的肉体的苦痛を内容とする人道上残酷と認められる刑を意味するものであることは、当裁判所大法廷の判示するところであり(昭和二二年(れ)第三二三号同二三年六月二三日判決、集二巻七号七七七頁)、また憲法一三条は、すべて国民は個人として尊重され、その生命、自由及び幸福追求に対する権利は最大の尊重を必要とするが、同時に公共の福祉という基本的原則に反することはできないという趣旨を定めているから、生命に対する国民の権利といえども、立法上制限ないし剥奪される場合があることは当然予想されるところであると解することも、当裁判所大法廷の判示するところである(昭和二二年(れ)第一一九号同二三年三月一二日判決、集二巻三号一九一頁)。さらにまた刑罰法令に前記の趣旨に副う一般普通の刑を定めるに当り、その罪の性質、態様、程度に従って、いかなる種類、範囲の刑を科すべきものとするか、また裁判所にその種類範囲についていかなる限度の裁量を認めるべきかは、すべて立法機関の定めるところに委ねられた立法政策ないし立法技術の当否の問題であって、憲法適否の問題でないことは、当裁判所大法廷の判例の趣旨から十分にうかがえるところである(昭和二三年(れ)第一〇三三号同年一二月一五日大法廷判決、集二巻一三号一七八三頁参照)。従ってこれらの判例の趣旨から明らかなように、酒税法に定める刑が残酷な刑といえないことはもちろん、また憲法一三条の本旨とするところになんら反するものでないことは、当然帰結しうるところであって、論旨は採用することができない。次に所論一の(二)は、現行酒税法の昭和二三年七月の改正は、占領軍の日本政府に対する命令により国会の自由な討論を経ない一方的決議で成立したものであって、憲法五九条に違反するというのであるが、所論の改正が第二回国会において昭和二三年六月中旬以降正規の手続を経て昭和二三年七月七日法律第一〇七号として成立するに至ったことは公の資料によって明らかであるから、これに反する全く独断の事実を基礎とする違憲の主張はその前提において成り立たず、適法な上告理由と認められない。また所論二は、国税犯則取締法が違憲であると主張するのであるが、かかる主張は、本件起訴の前提たる手続に関する法律について、原審でなんら主張せず従って判断を経なかったのにかかわらず当審においてはじめて主張するのであるから、適法な上告理由と認められないのみならず、所論の国税犯則取締法一〇条も二二条も本件告発とは関係のない規定であって、違憲の主張としても、その前提においてすでに失当である。
同第二点について
所論は原審で主張されず判断も経ていない単なる法令違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
その他記録を調べても同四一一条を適用すべき事由は認められない。
よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)